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大阪高等裁判所 昭和30年(う)465号 判決

被告人川野和平、川野忠男、岡本八郎の弁護人甲及び被告人川野和平の弁護人乙連名の控訴趣意第一点について。

所論に従つて昭和二五年七月二〇日付及び同年九月二〇日付各起訴状と同年六月二四日付大阪税関長梅原俊雄作成の告発書を対照しながら仔細に検討考察すると、

一、昭和二五年七月二〇日付起訴状の公訴事実第二(原判示―頭書(甲)事件の判決を指す、以下特記するものの外同様―第二に該当)の(イ)の輸出貨物が、陶器藁包四〇個、自転車一台外洋傘雑品数点であるのに対し、告発書(二)には天井板数量不詳となつており同公訴事実第二(原判示第二に該当)(ロ)の輸入貨物が黒砂糖約二〇〇〇斤、粉末ミルク罐叺入約一〇個(一叺一〇個乃至一五個入)であるのに対し、告発書(二)には中双目砂糖数量不詳、海人草数量不詳、鰹節トラツク一台分、衣類数量不詳、米国製紙巻煙草二〇〇カートン、ペニシリン約二〇箱となつており、

二、同公訴事実第三(原判示第三に該当)の(イ)の輸出貨物が杉板約一〇〇束であるのに対し、告発書(三)には天井板数量不詳、瀬戸物数量不詳となつており、

三、同公訴事実第四(原判示第四に該当)の輸出貨物が陶器類等約一〇梱、杉板約五〇坪、昆布約一五〇斤であるのに対し、告発書(四)には天井板数量不詳、瀬戸物数量不詳となつており、

四、昭和二五年九月二〇日付起訴状の公訴事実第一の二(原判示第六に該当)の(一)の輸出貨物は杉板約四四石七六八及び織機約七台、輸出通貨が日本銀行券約八〇万円であるのに対し、告発書(六)には挽板数量不詳及び日本銀行券約八〇万円となつており、

五、同公訴事実第一の四(原判示第八に該当)の(二)の輸入貨物は鰹節約二〇〇〇斤、海人草約一〇〇斤、洗濯石鹸約二〇〇個、黒足袋約一〇〇疋、作業衣約二〇〇着、靴約一〇足、護謨長靴約五足、化粧石鹸約一〇〇個、防水ジヤンバー約二〇着、キヤラコ約五反、ダイアジン、チヤソール計約一〇本(一本千錠入)であるのに対し、告発書(八)には米国製洗濯石鹸約五〇個、米軍用雨衣約五〇着、日本製足袋約一〇〇足、米国製紙巻煙草約五〇カートンとなつており(なお右密輸入の際の往路において同公訴事実第一の四の(一)のとおり日本銀行券約三〇、〇〇〇円を輸出したことについては告発書と合致しており)

六、同公訴事実第一の五(原判示第九に該当)の輸出貨物が杉板二四石七一七であるのに対し、告発書(一〇)には製材数量不詳となつており、(なお右と同時に携行輸出した同第一の五の(一)の日本銀行券約一二〇万円については両者合致しており)

七、同公訴事実第一の六(原判示第一〇に該当)の輸出貨物は薬用木根約二〇俵、アルミ製品七二梱包であるのに対し、告発書(九)には薬用木根数量不詳、アルミ製品数量不詳となつており(なお仕向地が韓国である点において両者合致し、日時は起訴状には昭和二三年八月八日頃、告発書には同年七月初頃となつており、所論のように五月ではない)

八、同公訴事実第一の八(原判示第一二に該当)の(一)の輸出貨物は自転車三台、精米機約三台、丸鋸四二吋もの約一五〇枚、釘約三樽、ミシン約三台、始動薬約一〇箱、アルマイト食器類外金物類トラツク一台分、瀬戸物類約五〇梱包等であるのに対し、告発書(一二)には精米機約三台、瀬戸物数量不詳、手動精粉機若干、火鉢若干、雑貨若干となつており、

九、同第一の九(原判示第一三に該当)の(一)の輸出貨物は馬鈴薯約一〇〇〇貫、精米機約三台、精粉機約一〇台、肉挽機約五台、製麺機約五台、昆布約三〇貫、小間物雑貨約二梱包、謄写版三台、原紙一〇〇〇枚、三丁、インク三個、鉄筆三箱、クレオン一〇打、色紙五〇束、クレオンペーパー一〇〇冊、古雑誌三貫八〇〇匁であるのに対し、告発書(一三)には馬鈴薯一〇〇〇貫、精米機約三台、雑誌及び文房具類約一〇点、雑貨数量不詳となつており、

一〇、同公訴事実第一の一五(原判示第一九に該当)の(一)の輸出貨物は若布約二〇箱、千切一五叺、金庫二台、杉板及び角物二八石〇七七等であるのに対し、告発書(二〇)にはアルミ製品トラツク二台分、日用品数量不詳、製材数量不詳となつており、

一一、同公訴事実第一の一六(原判示第二〇に該当)の輸出貨物は、昆布約一〇〇〇斤、若布約二〇箱、約二五叺、アルミ製品大箱約五〇箱、ミシン約七台、玩具約二五箱、洋傘約一〇箱、銘仙約一二〇反、秤約四〇本、蓄音機一台、福神漬約一〇樽、サルカン約四箱、酢の素約五瓶、ノート約二箱、クレオン約一箱、化粧品約一箱、船具類八一、一九五円相当、薬品六四、九〇〇円相当、昆布一七、三二〇円相当、若布八〇、二二一円相当、クリーム一〇個(一、三〇〇円相当)玩具九二〇円相当、事務用品一一、〇六五円相当、書籍四、六三〇円相当、フエルト草履八〇〇円相当、算盤九〇〇円相当、三輪車九五〇円相当、ランプ九〇〇円相当、電球一〇個(八五〇円相当)卓上日記一五〇円相当、下駄七〇〇円相当等であるのに対し、告発書(一二)には昆布、スルメ、アルミ製品、ミシン、自転車、雑貨、いずれも数量不詳となつており、

以上を通覧すると、輸出入の貨物は、右一に記載のように昭和二五年七月二〇日付起訴状の公訴事実第二(原判示第二)の(イ)の輸出貨物が告発書の記載とまつたく異なる外、その他の事実においては共通する物もあるが、大部分その品目数量がくいちがつていることは所論のとおりである。しかし両者の記載は、犯行の日時及び共犯者において多少相違するが大体において一致し、供用船舶、出航地、仕向地を同じくし、更に関係証拠によつて究明すると、両事実は別異に属せず、同一の事実に帰することを知ることができるのである。中でも昭和二五年七月二〇日付起訴状公訴事実第二に当ると見られる事実について告発書は、被告人川野和平は田中信蔵らと共謀し、高栄丸によつて同起訴状の公訴事実第一に当る犯行を遂げたが、これに成功した同被告人は信蔵らと手をわかつて密貿易をすることを企図し、昭和二二年一〇月末頃、堤又右衛門を責任者、永谷清を船長とし同船を使用して大城満助を便乗させ、密輸出を敢行した旨を記載してあり、このことは同被告人及び被告人堤又右衛門の各検察官に対する供述調書等によつて裏付けられ、その日時、出航地、仕向地等を同じくすること等と照合してその貨物の点においてくいちがつていても右は同一の事実を指示するに外ならないことを容易に認め得るのである。そして関税法違反罪における告発とは、税関官吏において調査の結果、犯則ありとの心証を得た事実について、法定の場合にこれを捜査機関に申告し訴追を促すことに外ならず、検察官は告発により事件を捜査し、その事実があつて必要と思料すれば公訴を提起するのであつて、その事実の内容の細部について税関官吏の申告に拘束されるものではなく、犯則事実の一部に対する告発もその全部について効力を生ずるものであつて、要は告発の事実と起訴の事実とが別異に属せず同一である以上、内容の細部について相違しても告発に基く起訴であるとみて何ら差支いはないものというべきである。そして前掲起訴の事実が告発の事実と同一のものと認められることは上記のとおりであるから、本件起訴が不適法のものであるとする所論はこれを採用し得る限りではない。

次に昭和二七年九月二〇日付起訴状の公訴事実第四(原判示第二三に該当)に関する告発書が記録中に編綴されていないことは所論のとおりであり、関税法違反事件においては告発が訴訟条件となつているから、告発がなされていることについては、いわゆる厳格な証明を必要としないが、検察官は告発のあつた事実を適当な方法で証明すべきであり、又裁判所は職権によつてこれを取り調べなければならないのである。しかるに原審はこれに関し何ら究明した形跡がないので、審理不尽のそしりを免れないが、当審において検察官から、右事実に関する告発書が証拠として提出され、それによると前記事実について適式の告発がなされたことが明らかで、この事実に対する公訴は適法なものであると認められるから、結局右違法は判決に影響を及ぼさない。

論旨はいずれも理由がない。

同第二点について、

所論は、税関長の通告処分を前提としない告発は無効であるというのであるが旧関税法(昭和二九年法律第六二号による改正前)第九七条は「税関長ハ通告ヲ為シ難シト認ムルトキ又ハ通告ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキハ直ニ告発スヘシ、情状懲役ノ刑ニ処スヘキモノト思料スルトキ亦同シ」とし、通告処分をまたず告発すべき場合を定め、右各場合に該当するか否かを税関長の認定に委ねているのである。従つて税関長が犯則ありとの心証を得た事件について調査をし、通告処分に付することが不相当と認めた場合には、直ちに告発し得るものと解せられ、いやしくも右職権ある税関長による右法条による告発がなされた以上、密貿易の貨物等について不正確な点があつても、これに基いてなした公訴提起は適法であるとしなければならない。

(昭和二四年七月二三日最高裁判所第二小法廷判決、判例集第三巻第八号一三八六頁参照。)論旨は理由がない。

同第三点について、

原判決頭書(甲)事件の判決を指す、以下特記するものの外同様)は前後約二年半にわたる多数回の密輸出入及び賍物故買の貨物の種類、数量を、主として共犯者の各供述によつて認定しておるので、果して右供述が正しい記憶に基いてなされたものであるか、右各供述のみによつて原判示の貨物の種類数量が認め得るか、一応疑問が持たれるので、所論にかんがみ記録を精査し、各供述について検討すると、その共犯者は同一の者に終始しているのではなく、一部を除いて数回ごとに顔触れを異にし、各供述は十分信用性があり、これらを総合すれば各供述の符合する限度において、原判示の各貨物の種類数量を認定し得ることが明らかで、原判決の認定が経験則に反しているとは認められない。所論は理由がない。

同第四点について。

原判決末尾添付の所論原価表によると、その備考欄に、その上欄掲記の各原価を認定した証拠を明記しており、それによれば同表(一)の各原価は、原審第八回公判調書中の証人吉川義雄の供述の記載及び鑑定人吉川義雄作成の犯則物件鑑定書(昭和二六、一一、三〇付)並びに同追鑑定書(昭和二七、九、一九付)により、又同表(二)の各原価は、和歌山税関支署長作成名義の「犯則物件鑑定書の送付について」と題する書面添付の犯則供用船舶鑑定書によつて認定したことが明らかであり、原判決は各原価を証明する証拠を示していないとする論旨はとるに足りない。

同五点及び被告人清水操を除くその余の被告人らの弁護人丙の控訴趣意第二の(一)について。

原判決末尾添付の無免許輸出入貨物の原価表には、その第一九欄の海人草五六〇〇斤について、その原価が一、六八〇、〇〇〇円とあり、その算定の基礎として一〇〇斤三、〇〇〇円と記載されていることは所論のとおりであるが、同表備考欄に掲げられてある鑑定人吉川義雄作成の犯則物件鑑定書によると、一〇〇斤三〇、〇〇〇円が正確であり、同表の記載は右の誤記であることが明白であり、従つて右原価が一、六八〇、〇〇〇円であるとする原判示には誤りはないと認めることができるので、原判決が本件貨物の価格を過大に誤認しているか、理由不備であるとの所論は採用の余地はない。

前示甲、乙両弁護人連名の控訴趣意同第六点、第七点及び第八点について。

所論は原判決が判示第一、第二の(イ)(ロ)、第三の(イ)(ロ)、第四、第六の(一)の(イ)、第六の(二)及び第七の(一)の(イ)に適用している昭和二一年勅令第二七七号(関税法の罰則等の特例に関する勅令)は昭和二三年法律第一〇七号(所得税法の一部を改正する等の法律)によつて廃止され、同時に同法第五八条によつて廃止前の行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨が規定されたが、右勅令第二七七号は昭和二〇年勅令第五四二号(ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件)に基いて制定されたもので、同勅令に基く法令は、昭和二五年政令三二五号の効力に関する昭和二八年七月二二日の最高裁判所の判例の趣旨にかんがみ、平和条約発効後は当然失効したものと解すべきで、前記勅令第二七七号も同様で、これに定められた刑は廃止されたというのであるが、昭和二〇年勅令第五四二号は日本国憲法にかかわりなく、同法施行後も同法外において法的効力を有していたことは最高裁判所の数次の判例によつて明らかにされていることであり、右勅令第五四二号は昭和二七年法律第八一号によつて、平和条約発効の日から廃止されたけれども、昭和二一年勅令第二七七号は、右勅令第五四二号が法的効力を有していた間に同勅令に基いて適法に制定されたもので、一旦適法に制定された法令は、その後の法令により廃止されない限り、効力を有することはいうまでもなく、右勅令第二七七号は昭和二三年法律第一〇七号第三八条によつて廃止されるとともに、同法第五八条により、廃止前の行為に対する罰則の適用についてはなお同勅令の規定による旨を定められたので、右勅令第五四二号の廃止にかかわりなく、依然効力を有するものといわなければならない(昭和三〇年一〇月二六日最高裁判所大法廷判決、判例集第九巻第一一号二三一三頁、昭和三二年一月三一日同第一小法廷判決、判例集第一一巻第一号三三九頁参照)所論引用の昭和二五年政令第三二五号に関する最高裁判所の判例は本件に適切でない。従つて原判決が判示のとおりその一部について右勅令第二七七号を適用処断しているのは正当であり、同勅令第一一条に基く昭和二一年五月一七日大蔵省令第六四号(関税法の罰則等の特例に関する勅令の施行に関する省令)第三条により、沖繩がその帰属すべき国が決定されるまでの間、外国とみなされている点についても同様であり、右勅令第二七七号の効力が失われない以上、刑の廃止があつたものとすることはできない。

同第九点及び第一〇点について。

原判決がその判示事実の一部について、昭和一六年法律第八三号外国為替管理法第一条第二号、第七条第一項、昭和二〇年一〇月一五日大蔵省令第八八号第一条第三号を適用しているが、右大蔵省令第八八号は外国為替管理法第一条及び昭和二〇年勅令第五七八号(金、銀若ハ白金ノ地金又ハ合金ノ輸入ノ制限又ハ禁止等ニ関スル件)第一条の規定によつて定められたものであり、沖繩が外国とみなされているのは、右勅令第五七八号第五条によるのであり、そして同勅令は前記昭和二〇年勅令第五四二号に基いて制定されたものであることは所論のとおりであるが、右勅令第五七八号は昭和二〇年勅令第五四二号が効力を有していた間にこれに基いて制定されたもので、同勅令が平和条約発効と同時に廃止された後も右勅令第五七八号そのものが廃止されない限り、なお有効であることは前段説示のとおりであり、そして前記昭和二〇年大蔵省令第八八号の基本をなす右勅令第五七八号及び外国為替管理法は昭和二四年法律第二二八号外国為替及び外国貿易管理法制定とともに廃止する旨を定められ、無免許輪出関係については昭和二四年政令第三七五号により同年一二月一日から、又無免許輸入関係については昭和二四年政令第四一三号により昭和二五年一月一日から各施行され、いずれも同時に新法施行前の行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨が定められているので、平和条約発効後もなお効力を有することはいうまでもない。論旨は理由がない。

同第一一点及び第一二点について。

沖繩が外国とみなされているのは、関税法関係にあつては、昭和二一年勅令第二七七号(関税法の罰則等の特例に関する勅令)第一一条及び昭和二一年大蔵省令第六四号(関税法の罰則等の特例に関する勅令の施行に関する省令)により、右勅令第二七七号が昭和二三年七月七日法律第一〇七号第三八条により廃止された後は、同法第二三条によつて改正された関税法第一〇四条及び昭和二三年七月七日大蔵省令第五九号(なお昭和二四年法律第六五号〔関税法の一部を改正する法律、同年六月一日より施行〕により関税法第一〇四条が改正された後は昭和二四年五月二六日大蔵省令第三六号)により、又外国為替管理法関係にあつては、昭和二〇年一〇月一五日勅令第五七八号(金、銀若ハ白金ノ地金又ハ合金ノ輸入ノ制限又ハ禁止等ニ関スル件)第五条(右勅令第五七八号廃止後は外国為替及び外国貿易管理法第六条第一号、昭和二五年一月二八日総理府、大蔵、通商産業省令第一号)に基くのであるのに、本件起訴状及び判決書には前記法令を明記していないことは所論のとおりであるが、刑事訴訟法第二五六条が起訴状に罰条の記載を命じているのは、訴因を特定させるためであるから、罰条の記載は当該訴因の内容をなす事実が、起訴状記載の罪名に該当するのであることを明らかにする程度に示せば足りるのである。本件起訴状の記載によれば、その罪名である昭和二一年勅令第二七七号関税法の罰則等の特例に関する勅令違反罪が同勅令第一条第二項にあたり、外国為替管理法違反罪が同法第一条、第七条、昭和二〇年大蔵省令第八八号にあたり、関税法違反罪が同法第七六条にあたることを示しており、一見してその訴因を理解し得るから、この程度で十分であり、沖繩が外国とみなされる根拠である前記各法令のごときを起訴状に記載することは必要ではない。又有罪判決の理由中に適用した法令を示すのは、主文のよつて来る根拠を明らかにするためであるから、その程度に示せば足りるのであつて、適用した法令全部を掲げなければならないことはない。本件において沖繩が外国とみなされているのは、前記各法令に基いているのであるが、沖繩が第二次大戦後本来の他の領域と異なり、外国地域とされていることは一般周知のことであるのみならず、本件密輸出入罪は本邦より外国に仕向け、又は外国より本邦に向けた貨物又は通貨等の積載又は陸揚によつて成立し、又それをもつて構成要件を充足し、その外国が何れの地域に属するのであるかを明らかにすることを要請されるものではないのであるから、外国の意義を定める根拠法令のごときは、これを判文中に明記することは、判文を理解させるために望ましいことではあるが、絶対要件ではない。従つて沖繩を外国とみなす前記各法令を示さなかつた原判決には所論のように法令の適用を誤つた違法はない。

次に本件起訴状には、訴因第一の四の(二)及び同第一の一六(所論中訴因第四の(二)、同第一六とあるは上記の各誤記と認める)に対する罰条の記載を欠いているけれども、起訴状によれば訴因第一の四の(二)は同第一の三の(二)と同種の密輸入の事実であり、同第一の一六は同第一の一五と同種の密輸出の事実であることとが明らかであるから、罰条も第一の三及び第一の一五に記載されてあるとおり、関税法第七六条であることを容易に判読理解され、右罰条の欠缺は刑事訴訟法第二五六条第四項の被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない場合にあたるものと解せられ、本件公訴提起の効力には影響を及ぼさないものと認められる。論旨は理由がない。

同第一三点について。

記録を調べると、昭和二六年九月一三日の原審第七回公判調書によれば、検察官は所論の大城満助の検察官に対する供述調書の証拠調を請求し、被告人らの弁護人はこれを証拠とすることに同意し、証拠調が行われたことが明らかであり、所論のように原判決が証拠調を経ない右供述調書を証拠とした違法はない。論旨は理由がない。

同第一四点について。

記録を調べると、原審第九回公判において、弁護人丙より高砂屋主人某の証人尋問を請求し、昭和二七年七月四日付で同弁護人より高砂屋森巌として住所を明らかにした証拠調請求書を提出し、原裁判所は同人に対し同月一六日に証人として出頭すべき旨の召喚状を送付したところ、同人から病気のため出頭不可能の回答があり、第一〇回公判において同人に対し臨床尋問をすることを決定し、同年八月一二日同証人方において同人を尋問した後、第一一回公判において職権により右証人尋問調書の証拠調をしたことが明らかである。論旨は理由がない。

同第一五点及び第一六点について。

原判決は主文中において判示第一七乃至第二〇の罪につき被告人川野和平より第一住化和丸(別名第三紀水丸)を没収すると明示し、理由において判示第一七の外判示第三、第五、第一二、第一三、第一四、第一六の各犯則の供用船舶が住化和丸(別名第三紀水丸)である旨を説示していることは所論のとおりであるが、その冒頭記載において被告人川野和平は第一住化和丸(別名第三紀水丸)を所有していたことを明記しており、同被告人の原審第二回公判における供述、同被告人の検察官に対する昭和二五年七月二〇日付供述調書、被告人川野忠男の検察官に対する第二回供述調書、神前三郎の検察官に対する同年八月三日付供述調書、太田芳次郎の検察官に対する第二回供述調書及び押収されてある第一住化和丸の船舶原簿謄本を総合すると、原判示の住化和丸とはもと住友化学工業株式会社の所有であつたのを、昭和二二年八月頃同会社から被告人川野和平が譲り受けて改造し、第三紀水丸ともいい、住化和丸は略称で、正称は第一住化和丸であることが認められ、主文中の第一住化和丸と同一の船舶に外ならないことが明らかである。又同一物件が確定判決の前後にわたる同種の各犯行の用に供され、それが必要的没収の対象となるときでも、刑法第四五条、第五〇条に従い同時に言渡す二個以上の刑の内いずれか一個の刑に附加して言渡せば足りると解するのを相当とするから、原判決が確定判決後の判示一七の犯行の供用船舶として、前記第一住化和丸を被告人川野和平より没収したのは正当であり、原判決には所論のような理由のくいちがいはない。論旨は理由がない(なお第八紀水丸に関する点については後記のとおり判断したのでここでは省略する。)

同第一七点及び第一九点について。

記録を調べると、原審は昭和二七年九月二七日に開廷された第一二回公判において弁論を終結し、被告人らに対し判決言渡期日を追つて指定する旨を告知し、次いで昭和二九年九月二一日判決言渡期日を同月二九日午前一〇時と指定し、被告人らに対し右期日に出頭すべき旨の召喚状が送達され、同日の第一四回公判において、被告人ら出頭の上判決が言渡されたことが明らかである。所論の昭和二九年九月八日付の弁論再開決定は原審相被告人宝村武弘に対する部分に限られていることは、同決定書(記録第一八四一丁)に明記されているとおりであつて、被告人川野和平らには何ら関係がない。論旨は理由がない。

同第一八点について。

長期間にわたり開廷しなかつた場合に、公判手続を更新するのは、裁判所が必要と認めたときに限られていることは、刑事訴訟規則第二一三条第二項に明定しているとおりである。記録によると、原審は昭和二七年九月二七日第一二回公判において弁論を終結し、それより二年余を経過した昭和二九年九月二九日を判決言渡期日と指定し、同日開かれた第一四回公判において、まず被告人堤又右衛門外三名に対する弁論を分離し、その他の被告人に対する身上調査に関する照会書と被告人清水操外八名に対する前科調書の証拠調をした上、出頭の被告人らに対し、本籍、住居、職業等身分関係について変動がないかを尋ねた後、判決の宣告をしており、当日弁論を再開したのは身分及び前科関係についての調査のためで、本案の実質についての取り調べのためでないので、原裁判所は公判手続を更新する必要を認めなかつたのであることが認められ、その措置について違法不当の点は少しもない。論旨は理由がない。

同第二〇点について。

原判示第一の要旨は、被告人川野和平は政府の免許を受けていないのに、他の八名らと共謀して昭和二二年九月末頃、沖繩与那国島から高栄丸(別名第一紀水丸)に海人草等の貨物を積み込んで来て和歌山市御膳松に陸揚げして輸入したという事実であり、同第二の(一)の要旨は同被告人は政府の免許を受けていないのに、他の八名らと共謀して同年一〇月末頃、和歌山市青岸岸壁に繋留中の沖繩方面向けの前記高栄丸に陶器類の貨物を積み込み輸出したという事実であり、右各犯行の日時は、連続犯に関する刑法の規定の廃止された以前に属することは所論のとおりであるが、原判決挙示の被告人川野和平の検察官に対する第二回供述調書によると、判示第一は「田中信蔵から海人草採取の許可を受けているから船を貸してくれといわれて、賃料一航海三〇万円で判示高栄丸を同人に貸し、永谷清船長以下の船員を差し廻して航海に出し同船に海人草等の貨物を積込んで来て、御膳松に着けた」とあり、又判示第二は「田中信蔵との間で高栄丸の前記賃貸料の清算が円滑にいかぬので同人と手を切り、CIC等の関係方面に問い合わせ、海人草採取について大阪で許可を得ようとしたが、船籍が和歌山であつたためできず、和歌山で手続を進め、高栄丸に堤又右衛門らを乗せて出した」とあり、判示第二は判示第一の犯行後犯意をあらたにしてなした犯行であり、その間に犯意の継続があつたものとは認められないので、原判決が右両者に対し旧刑法第五五条を適用しなかつたのは正当である。論旨は理由がない。

同第二一点及び前記丙弁護人の控訴趣意第一について。

旧関税法第三一条には「貨物ノ輸出若ハ輸入ヲ為サントスル者ハ税関ニ申告シ貨物ノ検査ヲ経テ其ノ免許ヲ受クヘシ」と規定されており、又旧関税法施行規則第三四条及び第三七条には輸出申告書及び輸入申告書に記載すべき要件が明定されているが、記録を精査しても、被告人らが法定の手続による輸出入申告をなして、これに対する免許を受けたことを認めることができないのみならず頭書(甲)(乙)(丙)の各原判決挙示の証拠によると各犯行当時被告人らはその行為の不法であることを十分認識していたことが明らかであつて、各原判決には所論のような事実誤認はない。論旨は理由がない。

同第二三点について。

原判示第九の(二)の密輸出貨物である杉板二四石七一七が判示第一一の(一)の密輸出の貨物中に包含されていることは、原判示によつても明らかであるが、判示関係証拠によると、判示第九の(二)に示すとおり、被告人川野和平らは昭和二三年七月一六日頃、第八紀水丸に右杉板二四石七一七を積み込み沖繩へ向け和歌山市御膳松より出航したが、途中暴風雨に遭遇して引返し、一旦これを陸揚げの後、更に他の貨物とともに右杉板二四石七一七を同船に積込んで、沖繩へ向け同所より出航したことが明らかである。そしていわゆる密輸出罪は政府の免許を受けることなく、外国又は外国とみなされる地域に仕向けられた船舶に貨物を積載したときに既遂となるのであつて、密輸出の目的で一旦船舶に積み込んだ後途中で引返し陸揚げした貨物を、更に同目的でその船舶に積み込むときは二個の密輸出罪を構成するものといわなければならない。従つて原判決がこれらを旧関税法(昭和二三年法律第一〇七号)第七六条の併合罪としたのは正当である。論旨は理由がない。

前記丙弁護人の控訴趣意第二の(二)について

判示第一乃至第四の事実については、大城満助が共謀者となつており、密輸出入貨物には同人の所有に属するものがあつたことが証拠により認められるのに、原判決は判示第一、第二の(イ)、(ロ)第三の(ロ)の貨物について、昭和二一年勅令第二七七号(関税法の罰則等の特例に関する勅令)第九条第三項を適用し、被告人川野和平に対しその価格の追徴を命じていることは所論のとおりであるが、同条項の犯人とは旧関税法(昭和二三年法律第一〇七号)第八三条と同じく、すべての共謀加担者を指すものと解せられるから(昭和二八年七月二一日最高裁判所第二小法廷決定)、同被告人に対し右追徴を命じたのは正当である。論旨は理由がない。

同第三について。

原判決は所論第八紀水丸(旧天徳丸)は、被告人川野和平の所有であつたところ、犯行後他に処分されたことについては、被告人川野和平及び堤又右衛門の当法廷での各供述並びに大城満助の検察官に対する供述調書によつて認められるとして、被告人川野和平に対し、その価格五二五、〇〇〇円の追徴を命じている。ところが記録を調査すると、原審第二回公判において、被告人川野和平は裁判官に対し、同船は沖繩で押えられたままである旨を述べ、同第四回公判において裁判官の問に対し、被告人堤又右衛門は、同船は沖繩の島で機関に故障を来し乗つて帰れないようになり、そのうち天徳が検挙されたというので、他の船に便乗して帰つた旨を述べ、被告人神前三郎及び榎本柳太郎も同趣旨の供述をしており、又堤又右衛門、山本三郎、榎本柳太郎、堤正之及び大城満助の各検察官に対する供述調書中この点に関する各供述を総合すると、同船は与那国島付近で珊瑚礁に乗り上げ、他の便船で堤又右衛門が先に帰り、他の乗組員は同船を放置したまま台湾人林発の世話で便船を得て帰国したがその後林発は同船を自己の所有とする手続として建安丸と改名し、運送船に使用していたことが認められる。すなわちこれによれば、第八紀水丸は偶然の事故により、被告人川野和平の所有及び占有を離脱し、同船が供用された判示第二〇の密輸出の共犯者である沖繩在住の中国人林発の手に帰したもので、むしろ同人より没収さるべき関係にあることが明らかである。ところが旧関税法(昭和二三年法律第一〇七号により改正されたもの)第八三条第三項又は昭和二一年勅令第二七七号(関税法の罰則等の特例に関する勅令)第九条第三項には、没収すべき物の全部又は一部を没収することが不可能のときは、その没収することができない物の原価(犯罪行為に供した船舶のときはその価格)に相当する金額を犯人より追徴する旨が規定され、その改正前の関税法第八三条第一項の「消費其ノ他ノ事由ニ因リ没収スルコト能ハザルトキ」の文言が削除されているのであるが、犯人の消費等任意の処分によらずして没収が不可能になつた場合にまで、犯人の所有、占有を離脱した供用舶船の価格を追徴することは、同法が没収、追徴を科した趣旨に副わないものと解せられ、右改正後の第八三条は改正前と同様に理解するを相当とする。前記第八紀水丸は、被告人川野和平の処分によつて没収することができなくなつたのではないことは前記のとおりであるから、同被告人に対しその価格につき追徴を命ずべきでないのに、これを命じている原判決には法令の適用を誤つた違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、この点において原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)

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